
「上達の法則―効率のよい努力を科学する」

じつは、この本を紹介するのは、2度目になります。
物事に上達するプロセスを考える上で、非常に素晴らしい内容ですので、もう一度、自分なりの解釈を加えて、紹介します。
認知学や記憶心理学の視点で考察すると、どの分野でも上級者には特有の性質があるそうです。
例えば、
・退屈しにくい、疲労しにくい
・「ながら」ができる
・復元仮定作業ができる(勝負後に正確に分析)
・コツをメタファで表現できる
・他者への評価が早くでき明瞭、でもすぐには表に出さない
・一見無関係なことからヒントを得る
・細部へのこだわり、美観がある
・上級者特有のスキーマ依存エラーを犯す
といった特徴を、この本では紹介しています。
で、このスキーマという説明では、
スキーマは知覚、認知、思考の枠組みのことであり、ぱっと物事を見たときに一瞬で要点を把握するのに必要なメタ知識である。毎日引越しを手伝っていれば、だいたいダンボール一箱はこれくらいの重さだ、とか、車両の運転ならこれくらいハンドルを切るとこれくらい曲がるだろうといった情報の蓄積である。上級者ほどスキーマを多く持ち、それに依存する。あまり思考することなく反射的に動作できる代わりに、初心者では、ありえない奇妙なエラーを犯すことがある。
とまぁ、このように記述されています。
で、この表現を、将棋にあてはめて考えると・・・。
その局面を見たときに、ぱっと、次の手が思い浮かぶというメタ知識が、上達者にはどんどん蓄えられていくということになります。いわゆる直感で浮かぶ手ということでしょう。ここで問題となるのは、「上級者特有のスキーマ依存エラー」があるということだと思います。
ぱっと思い浮かんでも、それが全部正しいとは限らないのです。
羽生三冠も、「直感の8割は正しい」とおっしゃっていました。ということは、逆に、2割は間違っているということです。
羽生三冠ですら2割は間違っているわけですから、私たちではもっと多くの間違いがあるのは明白でしょう。しっかりとした読みを入れる鍛錬によって、こうした「スキーマ依存エラー」を少なくしていくというプロセスが大事になるのではないでしょうか。
鍛えの入った将棋、という表現がありますが、読みをきちんと入れる作業を手抜かずに指す将棋のことを言っているように思います。
直感で浮かぶ手を数多く持ち、その精度を極めて高くするということ。
そして直感で浮かんだ手の誤差をその状況に応じて自己修復できるだけの読みの力を鍛えるということ。
この2つが、将棋が強くなるということと同義なのかなぁと考えています。